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支援費制度を考える。障害施策の転換点、障害福祉における介護保険?

公開日: : 最終更新日:2014/01/22 コラム

支援費制度を考える

車いすのイメージ

2003年4月、日本の障害者福祉が大きく変わります。

障害者への福祉サービスが「支援費制度」の枠組で提供されるようになります

「支援費制度」とは、
簡単に言ってしまうと、「障害者福祉における介護保険」です。

それまでの措置制度による行政サービスとしての福祉から、

利用者本位の選択・契約によるサービス提供へ転換されます

大きな理想と切迫した現実。

「支援費制度の光と陰」に注目します。

このサイトを見ている皆様のなかにも、

障害の利用者様にもサービス提供しているヘルパーさんや、

障害者福祉に携わっている方も多いと思いますので、
是非、ご一読ください。


支援費制度の意義と仕組み

支援費制度は先にも触れたように、
行政による画一的なサービスを廃止し、
利用者が自分でサービスを選択するというシステムへの
転換を目的とした制度です。

厚生労働省の見解は次のようなものです。(以下抜粋)

支援費制度は、ノーマライゼーションの理念を実現するため、

これまで、行政が「行政処分」として障害者サービスを決定してきた「措置制度」を改め、

障害者がサービスを選択し、
サービスの利用者とサービスを提供する施設・事業者とが対等の関係に立って、

契約に基づきサービスを利用するという新たな制度(「支援費制度」)とするものである。

支援費制度の下では、障害者がサービスを選択することができ、

障害者の自己決定が尊重されるとともに、
利用者と施設・事業者が直接かつ対等の関係に立つことにより、

利用者本位のサービスが提供されるようになることが期待される。

「支援費制度」の仕組みを簡単に図式化すると次のようになります。

市町村


    



③→

←④

①支援費支給申請

②相談・審査・受給者証の交付

③サービス利用契約

④サービス提供

⑤支援費の請求

⑥支援費の支払い

どこかで見たことがあると思った人、
見てのとおり、介護保険のそれと同じです。

サービス利用希望者は市町村に支援費の支給を申請します。

どんなサービスを必要としているのか、どのくらいの生活レベルなのか、
などを調査した後、
受給者証の発行となります。

利用者は受給者証を持って、サービス提供事業者と
サービス利用契約を結びます。

サービス提供事業者はその契約にしたがってサービスを提供します。

サービスを提供した事業者は、利用者からも費用の一部を受け取り、

また市町村に支援費の代理受領を請求します。

支援費はサービス実施の翌々月に
サービス提供事業者に振り込まれることになっています。

以上が簡単な支援費制度の流れになっています。

介護保険と大きく違うのは、

利用者のサービス選択や相談などを行うケアマネージャーが
この制度には存在しません。

原則的に、障害当事者によってサービスの選択や利用量の管理が行われます。

相談業務などは、市町村や保健福祉センターなどの機関が対応します。

相談業務などにケアマネジメントの手法は使われますが、

資格や職業としてのケアマネージャーは存在しないのが特徴です。

支援費制度の問題点

大きな理念に支えられて誕生した支援費制度ですが、
様々な問題点が浮き彫りにされております。

サービス供給量の不足

まず、

供給できるサービスの量が圧倒的に不足しています。

利用者の自己選択を基本にした支援費制度ですが、

選択できるサービスに限りがあり、
利用者の選択できる余地がないのです。

施設サービスひとつにとって見ても、

どこも定員がいっぱいで、利用希望者が溢れている状態です。

これでは利用者が施設を選択するのではなく、

施設が利用希望者を選択する「逆選択」となってしまいます。

サービスの需要に対して、供給している量がまるで追いついていません。

競争原理は需要と供給のバランスがあって、
はじめて成立するので、

市場原理を導入して活性化を図るのは難しいと考えられます。

また、市場原理の導入によって各事業者が切磋琢磨することで

サービスの質を向上させるということもねらいのひとつだったのですが、

その考えもかなり非現実的なものになっています。

まずは、提供できるサービスの量を確保できるように整備することが
最大の課題といえるでしょう。

行政の責任

次に、行政の責任が不明瞭な点です。

従来の措置制度化では、行政の責任によるサービスが提供されていたのですが、

これからは当事者による直接的な選択・契約であり、
サービス提供に行政の責任はありません。

市町村の役割がサービス斡旋や相談業務にとどまることなく、

地域でのサービス拡充にリーダーシップを発揮し、
社会資源を充実させていく義務があると思われます。

利用者の自己決定能力

支援費制度では、当事者による選択・契約が原則となります。

申請するのも、契約するのも、全て障害当事者です。

それは障害の種類にも関係しないため、

知的障害であっても当事者による契約は義務付けられています。

しかし、難解な制度を理解し、正しいサービスを利用するために、

必要な自己決定能力を持っていない場合が多いと思われます。

本人が契約などを行えない場合には
成年後見制度などを活用しなければならないのですが、

成年後見制度には、莫大な費用負担がかかり、制度も複雑なため、
一般的に利用できるような状態にはありません。

成年後見制度の整備が必要になります。

地域格差

障害者福祉に関しては、
力を入れている自治体とそうでない自治体との間に
大きな格差が存在しています。

施設の種類によっては、その地域にその施設がないという場合もあります。

高齢者福祉の場合は少ない、や、足りないといった問題が、

障害者福祉の場合にはない、つまり絶対数がゼロという自治体が多いのです。

地域で暮らす障害者を支えるために必要なサービスが整っていないため、

遠隔地の施設で暮らすことになったりしているのですが、
それも難しくなるかもしれません。

支援費制度における施設の収入では、

施設の設置されている自治体の利用者(つまり地元の人)が

施設を利用したほうが高い支援費が施設の収入として入ってきます。

これは、地域に暮らすことを重点に置いたためで、
できるだけ地域外の施設ではなく、地域の施設で暮らせるように、
地域の利用者から得られる支援費を高めに設定してあるのです。

しかし、そうなると、施設としては単価の高い地域の利用者を優先し、
地域外の利用者を取らなくなる可能性も強くなっています。

そうなると、地域にその種類の施設がない市町村に暮らす利用希望者は
いつまでたってもサービスを利用することができません。
サービスの利用を求めて転居することなども十分起こりうる事態です。

地域格差を是正するために、広域連合など、
柔軟な手法で対応していくことが重要です。

支援費制度の理想と現実

大きな理想を持ってスタートする支援費制度ですが

現実は利用者の「選択」に至るまでの環境が整っておらず、
様々な不安要素が混在しています。

「見切り発車」ともいえる制度のスタートですが、
それを可能にしたのは、この制度に対する関心の低さも要因です。

こういった大きな制度改革が実施されるにも関わらず、
一般的な認知は非常に低いのが現状です。

啓蒙活動など、国民の認知を広めていくことが必要だと思われます。

順調なスタートとなることはかなり想像しがたいのですが、

しかし、障害者福祉の理想を実現するために

「制度」という大きな枠組ができたことは評価できます

いかに、その枠に入るものを充実させていくかが
大きな課題となります。

※追記

支援費制度は、さまざまな問題を抱えながらも、
多くの利用者に利用されることによって社会資源の整備も進み、
利用しやすい制度になりました(地域間格差は依然として埋まりませんが)。

が、支援費制度はその財源を公費に依存していたため、
破綻することとなりました。

支援費制度は、自立支援法に受け継がれることになりました。

自立支援法に関する諸問題はこちらへ。

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