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どう変わる?訪問介護。平成30年介護報酬改定はホームヘルパーに何を望むのか?

平成30年介護報酬改定 訪問介護への影響は

平成30年度、介護報酬が改定されます!

ご存知の方も多いかと思いますが、平成30年4月に介護報酬が改定されます。
この介護報酬の改定は基本的には3年ごとに定期的に行われており、前回は平成27年4月に行われています。

介護報酬改定は介護保険サービスの需要と供給の調整だけではなく、
限られた財源を可能な限り有効に活用できるように、厚生労働省(と財務省)が目指すべき方向性を示すものにもなります。
つまり、改定内容を紐解けば、サービス事業者はホームヘルパーそれぞれに求められている社会的役割や理想像が見えてくるというものです。
もちろん、それが正しいかどうかはわかりませんが。。。

前回(平成27年度)介護報酬改定をプレイバック

前回H27年はマイナス改定

まず、今回の介護報酬改定の内容を見る前に、前回改定内容のおさらいをしてみましょう。

前回の報酬改定の情報はこちらにまとめてありますのでご参照ください。
平成27年介護報酬改定。未曾有のマイナス改定は訪問介護に影響するか?

身体介護・生活援助ともマイナス改定

前回の改定時、報酬単価を見てみると、身体介護60分未満のサービスで16単位のダウン、
生活援助も45分以上で11単位のダウンと、どちらもマイナス改定でした。

介護予防訪問介護は日常生活自立支援総合事業へ

介護予防訪問介護も大幅な報酬削減となっていました。
介護予防訪問介護自体は市町村等による総合事業に移行されていますが、
移行の際に報酬をさらに削減されているところも多いかと思います。

処遇改善加算で介護職員の定着を目指すも・・・

介護職員処遇改善加算が拡充されて介護職員のキャリアアップや定着を支援していましたが、
現在も訪問介護は人材不足が深刻な状況で、職員の確保が大きな課題になっています。

平成30年の改定はどうなったか?

今回の改定内容は プラス?マイナス?

では、ここからが本題!
こういった改定内容だった前回27年度改定でしたが、今回の改定についてはどうなっているか。
今回は全体で0.54%のプラス改定と発表しています。
訪問介護の改定内容について、厚生労働省の審議報告をもとに見ていきましょう。

PDF 平成30年度介護報酬改定に関する審議報告(PDF:675KB)

身体介護

身体介護

身体介護の報酬単価はこのように変わります。

所要時間改定前改定後
20分以上30分未満245単位248単位
30分以上1時間未満388単位394単位
1時間以上1時間30分未満564単位575単位
以降30分を増す毎に80単位83単位

いずれもプラス改定です。
が、非常に小幅です。
専門職として在宅介護を支える役割として評価されたのもあると思います。
訪問介護はどこも人手不足なので、これ以上削減はできないという事情もあるかと思います。

生活援助

生活援助(掃除)

所要時間改定前改定後
20分以上45分未満183単位181単位
45分以上225単位223単位

生活援助はマイナスになっていますが、これもどちらも2単位ということで非常に小幅な改定です。
単価の発表がある前の報道では、「身体介護・生活援助の報酬にメリハリをつける」と明言していたため、
身体介護はプラス、生活援助は大幅にマイナスになるのではないかという見方も強かったのですが、
全体がプラス改定になったことから、結果としてはあまり大きな変動はありませんでした。
ただ、生活援助の担い手を拡大していくことを今回の改定で大きな柱にしており、
身体介護は専門職、生活援助は多様な担い手(非専門職)という分化が進んでいくと思われますので、
今後も身体介護と生活援助の差は埋まる方向にはならないでしょう。

生活機能向上連携加算の拡充へ

今回の介護保険の改正では「自立支援」がやたらに強調されています。
そもそも自立支援は介護保険の最大の目的でもあるわけですから、
そこに効率的にたどり着くための検証を続けてきた結果のひとつが今回の改正にもあらわれています。
それが生活機能向上連携加算の拡充です。

【概要】
生活機能向上連携加算について、自立支援・重度化防止に資する介護を推進するため、見直しを行う。

【単位数】
<現行>
 生活機能向上連携加算 100単位/月
 ⇓
<改定後>
 生活機能向上連携加算(I) 100単位/月(新設)
 生活機能向上連携加算(II) 200単位/月

【算定要件等】
○生活機能向上連携加算(II)
現行の訪問リハビリテーション・通所リハビリテーションの理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が利用者宅を訪問して行う場合に加えて、リハビリテーションを実施している医療提供施設(原則として許可病床数200 床未満のものに限る。)の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・医師が訪問して行う場合

○生活機能向上連携加算(I)
・ 訪問リハビリテーション若しくは通所リハビリテーションを実施している事業所又はリハビリテーションを実施している医療提供施設(原則として許可病床数200 床未満のものに限る。)の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・医師からの助言(アセスメント・カンファレンス)を受けることができる体制を構築し、助言を受けた上で、サービス提供責任者が生活機能の向上を目的とした訪問介護計画を作成(変更)すること・ 当該理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・医師は、通所リハビリテーション等のサービス提供の場において、又はICTを活用した動画等により、利用者の状態を把握した上で、助言を行うことを定期的に行うこと

この生活機能向上連携加算についてですが、これまでもあったんです。
ただ、加算として算定される実績は極めて少なく、平成29年4月では156件しか算定されていません。

「それって、そもそもニーズがないんじゃないですか?」

とは、決して言わないのが厚生労働省。
対象を拡大し、単位数を増やすことでこの加算の定着を狙いに来ました。
ICTなどを使うというのは非常に重要な視点だと思います。
ただ、今までも訪問リハや訪問看護等が写真や絵などで姿勢・ポジショニングなどを紙にしてくれていたりっていうのはありましたよね。
動画等のっていうのにどこまで含まれるかも気になります。

この加算算定のためには、訪問・通所リハ事業所だけでなく、地域の医療機関の理学療法士・作業療法士等との連携も重要になってきますよね。

地域連携については別のブログでも書きましたが、大きな地域課題の一つとなっていくでしょうね。

「自立生活支援のための見守り的援助」の明確化

これも先ほどの話に関連していますが、訪問介護のサービスも必ず自立支援に結び付けることを意識してほしいと、
厚生労働省老健局は講演などでもさかんに強調していますね。

訪問介護で行われていた「見守り」というものを見直し、身体介護に位置づけられる「自立生活支援のための見守り的援助」として明確化しました。

自立生活支援のための見守り的援助(自立支援、ADL向上の観点から安全を確保しつつ常時介助できる状態で行う見守り等)
○ 利用者と一緒に手助けしながら行う調理(安全確認の声かけ、疲労の確認を含む)
○ 入浴、更衣等の見守り(必要に応じて行う介助、転倒予防のための声かけ、気分の確認などを含む)
○ ベッドの出入り時など自立を促すための声かけ(声かけや見守り中心で必要な時だけ介助)
○ 移動時、転倒しないように側について歩く(介護は必要時だけで、事故がないように常に見守る)
○ 車イスでの移動介助を行って店に行き、本人が自ら品物を選べるよう援助
○ 洗濯物をいっしょに干したりたたんだりすることにより自立支援を促すとともに、転倒予防等のための見守り・声かけを行う。
○ 認知症の高齢者の方といっしょに冷蔵庫のなかの整理等を行うことにより、生活歴の喚起を促す。

過剰な介護ではなく、自立支援を目標とした見守りの援助を行う。
これは身体介護に位置づけられるという判断です。
生活援助なのか、身体介護なのかあいまいなケースも多かったかと思いますが、
具体例などを挙げることで、明確化を図りました。
言い換えれば、身体介護と位置付けるからには、自立支援になっているかどうかをきちんと評価しなさいとも言われているということですよね。
逆に、生活援助は専門的な視点や能力がなくてもできることに限定するというメッセージでもあります。
これが何を意味するかというと、生活援助の介護保険からの切り離しが待っているということでしょうね。

生活援助の担い手の拡大

生活援助の多様な担い手

生活援助の切り離しについても言及されています。
生活援助を現行の訪問介護に従事するホームヘルパー以外の多様な担い手に行わせるために、
新たなカリキュラムを組むとしています。
つまり、生活援助のみのサービス提供を行う存在。
以前、ホームヘルパー3級という資格がありましたが、おそらくそれに準ずるようなカリキュラムを組んでいくものと思われます。

生活援助中心型の担い手の拡大

○ 訪問介護事業所における更なる人材確保の必要性を踏まえ、介護福祉士等は身体介護を中心に担うこととし、生活援助中心型については、人材の裾野を広げて担い手を確保しつつ、質を確保するため、現在の訪問介護員の要件である130時間以上の研修は求めないが、生活援助中心型のサービスに必要な知識等に対応した研修を修了した者が担うこととする。

○ このため、新たに生活援助中心型のサービスに従事する者に必要な知識等に対応した研修課程を創設することとする。その際、研修のカリキュラムについては、初任者研修のカリキュラムも参考に、観察の視点や認知症高齢者に関する知識の習得を重点とする。(カリキュラムの具体的な内容は今年度中に決定する予定

○ また、訪問介護事業所ごとに訪問介護員を常勤換算方法で2.5以上置くこととされているが、上記の新しい研修修了者もこれに含めることとする。

○ この場合、生活援助中心型サービスは介護福祉士等が提供する場合と新研修修了者が提供する場合とが生じるが、両者の報酬は同様とする。
○ なお、この場合、訪問介護事業所には多様な人材が入ることとなるが、引き続き、利用者の状態等に応じて、身体介護、生活援助を総合的に提供していくこととする。

この新・ホームヘルパー3級の役割を、地域の主婦や高齢者が担ってもらおうというのが狙いです。
はたして、そううまくいくのでしょうか。
現在、ホームヘルパーに関しても深刻な人手不足で、人材が定着しない状況です。
さらに単価の安い労働を行う人材がどれだけ地域にあるのか、または発掘していくのか。

次回報酬改定ではさらに生活援助は単価をさらに大幅に下げられるか介護報酬から切り離されることが予想されます。
生活援助専門のヘルパーが身体介護が必要になる局面に立たされるときどのように対応すべきか、
また、身体介護のできるヘルパーにどのように引き継いでいくのか、机上の議論では片づけられない課題はありますが。

訪問介護の利用回数制限

さらに、今回俎上に上がったのが、訪問介護の利用回数の制限です。
一か月の訪問介護(生活援助)利用回数が100回を超えるプランが適正なのかという議論が行われました。
これは、主にサービス付き高齢者向け住宅などで行われている頻回な訪問介護について、
不適切なのではないかという指摘から生まれました。

そして、このような利用回数の制限についての改定が行われます。

訪問回数の多い利用者への対応

ア 訪問回数の多いケアプランについては、利用者の自立支援・重度化防止や地域資源の有効活用等の観点から、市町村が確認し、必要に応じて是正を促していくことが適当であり、ケアマネジャーが、統計的に見て通常のケアプランよりかけ離れた回数(※)の訪問介護(生活援助中心型)を位置付ける場合には、市町村にケアプランを届け出ることとする。
(※)「全国平均利用回数+2標準偏差」を基準として平成30年4月に国が定め、6ヶ月の周知期間を設けて10月から施行する。

イ 地域ケア会議の機能として、届け出られたケアプランの検証を位置付け、市町村は地域ケア会議の開催等により、届け出られたケアプランの検証を行うこととする。また市町村は、必要に応じ、ケアマネジャーに対し、利用者の自立支援・重度化防止や地域資源の有効活用等の観点から、サービス内容の是正を促す。

通常のケアプランよりかけ離れた回数の訪問介護を位置付けることを禁止するというものです。
そして、それが必要な場合に関しては地域ケア会議で検証をすると。
これ、本当に地域ケア会議の役割なんでしょか。
特定事業所集中減算の例外的な対応としても地域ケア会議で検証されて承認された場合はオッケーみたいな決まりがありましたが、
地域ケア会議に関所みたいな役割を負わせることで、
本来あるべき地域課題の発見や解決といった機能がまったくなされていない有名無実なものになってしまうのではないでしょうか。

地域包括を持っている法人への優遇措置みたいな印象も受けてしまいます。

生活援助の担い手拡大へ

このほかにも、同一敷地内でのサービス提供での減算の強化であったり、
定期巡回随時対応型訪問介護看護をサービス付き高齢者向け住宅で行っている事業所に対して地域に向けてのサービスを提供するように明文化されたことも含めて、サービス付き高齢者向け住宅をターゲットに厳しい改定内容となっています。

まとめ

報酬改定の内容についての整理

今回の報酬改定について再整理します。

介護報酬基本単価は身体介護はアップ・生活援助はダウン。

いずれも変動する幅は大きくないので、これまでの報酬改定時のインパクトと比べると小さいものです。

生活機能向上連携加算の拡充

外部のリハビリ専門職との連携で加算を取得できます。

自立支援のための見守り的援助の明確化

見守りはただ見ているだけではなく、自立支援が目的になっているかどうかが重要!

生活援助の担い手拡大

ホームヘルパー3級の復活。生活援助専門に行うヘルパー養成が始まります。

生活援助の利用回数制限

生活援助の利用回数が著しく多いプランについては適正化の対象となり、地域ケア会議等での承認が必要になります。

介護報酬改定により、訪問介護が向かう先は

今回の報酬改定。訪問介護に限ったことではないのですが、
イメージとしては自立支援のための介護保険サービスという色合いを強く強調しているように見えます。
そのための加算算定や報酬の上乗せとなっていることからもわかるかと思います。
医療側からの意見が大きく反映され、自立支援(ADLの改善等)に効果があるとして根拠があるとされるものに
報酬を手厚くしているという印象があります。

では、医療側ではなく、介護側からの主張が介護報酬に反映されているかというと、そうではないようです。
介護の目的とは何か
利用者の尊厳を守ることや自己実現を達成すること、
数字や目に見えにくいその変化を積み重ねて、体系化いくことで介護の価値は高まり、
報酬などへの差別化・評価につながっていくと思われます。
そこができなければ、介護保険サービスは、いつまでも医療の下請けにしかならないのかもしれません。

制約でガチガチに固められてしまっている訪問介護のヘルパーができることは限られているかもしれませんが、
利用者の生活を根底で支えるホームヘルパーの存在は今後も欠かせない専門職であることは間違いありません。

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